自然治癒力の芽生え

患者は、静かに打ち明けてくれた。
「先生。俺はずっと寝たきりで、動くこともできなかったんだよ。」

その日で4回目の鍼治療だった。
彼は、頚肩痛や腰痛だけでなく、さまざまな不調を抱えていた。初めて会った時の彼は、顔色が青白く痩せ細り、体は緊張で硬くなり、目を合わせることすらできないほど神経が過敏になっていた。

不安を抱えながらも、それでも彼は鍼を続けると決め、定期的に通ってくれるようになった。その背景には、施術者である私への小さな「信頼」が芽生えていたのかもしれない。彼は、回を重ねるごとに言葉が増え、少しずつ心を開いてくれているのが伝わり、私の胸の奥は温かくなった。

そして4回目の施術のとき、彼ははじめて笑顔、まだ表情は硬いが、あきらかに口角を上げたやわらかな口元を見せた。
「段々よくなっているのがわかる。首の緊張もだいぶとれてきた。」

その声はか細くとも、確かな力を帯びていた。初回とは明らかに違う。気を使いすぎていた姿は消え、自分の気持ちをまっすぐ伝えられるようになっていた。

これこそが、鍼が引き出す本来の力、自然治癒力。そして、患者と施術者の間に積み重なった「信頼」がもたらす力なのだ。そう確信した瞬間だった。

「そうだったんだ!それなら、きっと良くなるね。一緒に頑張ろう!」
私の言葉に、彼は力強く答えた。
「ハイ!」